ONU故障から始まったネット不調。「transixなら速いはず」と信じてルーター追加までした私が、まさかの「物理層」で躓いた話

2026年2月16日

「ネットが遅い」 そう感じた時、あなたなら何を疑いますか? ルーターの再起動? プロバイダの混雑?

今回私が遭遇したのは、10年連れ添ったONUの故障から始まり、最新の通信方式(transix)への移行を経て、最終的に「光ファイバーの物理特性」にたどり着くまでの、長い長いトラブルシューティングの記録です。

「動画はサクサク見れるのに、Webサイトの閲覧だけがワンテンポ遅れる」 もし今、こんな奇妙な症状に悩んでいるなら、この記事が解決の糸口になるかもしれません。

ことの発端:10年戦士のONU、逝く

すべての始まりは、自宅のインターネットを10年間支え続けてくれたONU(回線終端装置)の故障でした。 ある日突然、ネットが繋がらなくなり、確認するとONUの「PPPランプ」が消灯していました。

すぐに業者に連絡し、新しいONUへと交換してもらいました。「これでネット環境も新品同様、快適になるはず」そう思っていました。

交換したのに「不安定」

ところが、ONUを新品に交換したにもかかわらず、通信速度がどうも安定しません。 速い時は速いのですが、たまにガクッと落ちる。

「そう言えば、同じマンションの新しい入居者の光回線の工事をやっていたな。これはきっと、古い接続方式(PPPoE)が夜間の混雑で限界を迎えているんだ」 私はそう推測しました。昨今よく言われる「網終端装置の輻輳」というやつです。

「transixなら解決するはず」という期待

この混雑を回避するため、私はIPoE方式(IPv4 over IPv6)である「transix」への移行を決意しました。 transixなら、混雑するPPPoEのルートを通らず、高速なIPv6網を経由してインターネットに出られます。

「これで爆速になるはず!」 期待に胸を膨らませ、transix対応のルーターを新調し、設定を済ませました。

しかし、「……遅い。変わっていない」- 現実は非情でした。

YouTubeなどの動画サイトは比較的スムーズに見れるのですが、通常のWebブラウジング(IPv4通信)をすると、クリックしてからページが開くまでにワンテンポ待たされる。画像がパラパラとしか表示されない。 ルーターまで買い替えたのに、なぜ?

ここから、私の徹底的なトラブルシューティングが始まりました。

腰を据えてトラブルシューティング

調査フェーズ1:ソフトウェア設定の疑い

まず疑ったのは設定ミスです。transix(DS-Lite方式)では、パケットサイズ(MTU)の設定が適切でないと通信効率が落ちます。

  1. MTU値の調整: tracepath コマンドで確認し、推奨値の 1460 に固定。
  2. DNSの変更: プロバイダのDNSから、Google Public DNS(8.8.8.8)へ変更。

これらを試しましたが、症状は改善しませんでした。

調査フェーズ2:ネットワーク経路の可視化

次に疑ったのは、「transixのゲートウェイ自体が混んでいるのではないか?」という説です。 ここで、Linuxの強力なネットワーク診断ツール mtr を導入し、通信経路を可視化してみました。

1. IPv4経路(transix経由)の確認

まずはGoogleのDNS(8.8.8.8)に対して mtr を実行しました。

mtr 8.8.8.8
  • Host 2 (ike-cr000.transix.jp): ここで約5.3%のパケットロスが発生。

「やっぱりtransixの設備も混んでいるのか……」と諦めかけましたが、念のために混雑とは無縁のはずのIPv6経路も調べてみることにしました。

2. IPv6経路(Native接続)の確認

mtr -6 dns.google
  • Host 2 (2409:...): なんと、ここでも 4.8% のパケットロスが発生。

これには驚きました。IPv6 Native接続は、混雑するゲートウェイを通りません。それなのにパケットが消えている。 つまり、原因はプロバイダの混雑ではなく、「自宅からNTT局舎までの回線そのもの」にあることが確定しました。

決定的な手がかり:「上り」と「下り」の速度差

「回線が悪い」といっても、ONUは新品に変えたばかりです。何がおかしいのか? Cloudflare Speed Testの結果を見たとき、ある「異常な偏り」に改めて気づきました。

  • 下り(Download): 約 5 Mbps (激遅・パケットロス多発)
  • 上り(Upload): 約 160 Mbps (爆速・安定)

もしケーブルが完全に断線していたり、ONUが初期不良だったりすれば、上りも下りも両方ダメになるはずです。 なぜ、「上りは元気なのに、下りだけ瀕死」なのか?

真犯人は「光ファイバーの曲げ特性」

調べてみると、光回線(GE-PON)では、上りと下りで「異なる波長の光」を使っていることが分かりました。

  • 上り信号(送信): 1310nm
  • 下り信号(受信): 1490nm

そして、光ファイバーには「波長が長いほど、曲げに弱く、光が外に漏れ出しやすい(マクロベンディングロス)」という物理的な特性があります。 つまり、1490nm(下り)は、1310nm(上り)よりも、ケーブルのカーブに対してデリケートなのです。

仮説

「ONUを交換した際、光ファイバーケーブルの取り回しを変えてしまい、どこかで『きつく曲がって』いるのではないか?」

そう考えればすべて説明がつきます。 きついカーブの場所で、上りの光(1310nm)はギリギリ通過できているが、下りの光(1490nm)だけが漏れて減衰している状態です。

解決:ケーブルを引き直したら爆速に

まさかと思いつつも善は急げと、ONUからの光ケーブルの配線を確認しました。 すると、確かに家具の裏でケーブルが少し窮屈そうになっている箇所がありました。

  1. ケーブルを一度抜き、絡まりをほどく。
    ねじれがあるとさらに曲げに対して弱くなるので、一度伸ばしてねじれをなくす。
  2. カーブが緩やかになるように配線し直す。
    束ねる場合は、もともとのクセに逆らわず直径が10cm程度になるようにふんわり束ねる。
    経路上も、直径が10cm程度の緩やかなカーブになるように注意する。
  3. コネクタを「カチッ」と音がするまでしっかり挿し直す。
    コネクタに力がかからないように適切に固定する。

たったこれだけを行い、再度スピードテストを実行した結果……

下り速度が数Mbpsから数百Mbpsへと「爆善」しました。 パケットロスも完全に 1.0% になり、Webブラウジングの引っかかりも嘘のように消滅しました。

なんだかんだで1か月近く悩まされ、全然見当違いの対策を行ってきましたが、光ケーブルを気を付けて配線しなおすだけで治りました。

トラブルシュートに使用したコマンド一覧

今回の原因特定に役立ったコマンド(Ubuntu/Linux環境)をまとめます。

1. mtr (My Traceroute)

PingとTracerouteを合わせたツール。リアルタイムでパケットロス率(Loss%)を監視できます。今回のMVPツールです。

IPv4(transix経由)の監視:

mtr 8.8.8.8

結果の読み方: Host 列の2行目以降(プロバイダ区間)で Loss% が0%以外になっていないかを確認。私の場合はここで5%のロスがありました。

IPv6(Native接続)の監視:

mtr -6 dns.google

重要: ここでもLossが出る場合、プロバイダの混雑(IPv4の問題)ではなく、物理回線の問題である可能性が高まります。

2. tracepath

ネットワーク経路上のMTU(パケットサイズ)を確認するコマンド。

tracepath -n 8.8.8.8

出力例: pmtu 1460 と表示されれば、transixに適したMTU値になっています。途中で pmtu の値がコロコロ変わる場合は設定が必要です。

3. curl によるTCP接続時間の計測

「なんとなく遅い」を数値化するためのコマンド。DNS解決、接続確立、転送開始までの時間を分解して表示します。

curl -w "DNS lookup: %{time_namelookup}\nConnect: %{time_connect}\nStart Transfer: %{time_starttransfer}\nTotal: %{time_total}\n" -o /dev/null -s https://www.yahoo.co.jp

不調時の結果:

DNS lookup: 0.020898
Connect: 0.041946
Start Transfer: 0.215824
Total: 4.943705

Start Transfer までは速いのに、Total が約5秒かかっています。データの転送中にパケットロスによる再送が多発している証拠でした。

改善後(IPv6)の結果:

Total: 0.054123

爆速です。

4. ping (MTUの限界値を調べる)

MTU設定が正しいかを確認するため、フラグメント(分割)禁止ビットを立ててPingを打ちます。
MTUサイズが限界値を超えるとpingがエラーになります。

# ヘッダ28byteを引いたサイズを指定(1460 - 28 = 1432)
ping -c 4 -M do -s 1432 8.8.8.8

まとめ

今回のトラブルの元凶は、transixでもルーターの設定でもなく、**「ONU交換時に発生した、光ケーブルの配線不良(曲げ損失)」**でした。

  1. ONUが壊れる。
  2. ONUを交換する(★ここでケーブルの曲げが発生)。
  3. ネットが不安定になる。
  4. PPPoEを疑ってtransix対応ルーターを買う(見当違いの投資)。
  5. それでも直らず、mtr で物理層の疑いを持ち、解決。

教訓:

  • 上りと下りの速度差に注目せよ。 片方だけ遅いなら、物理的な信号トラブル(光の減衰)を疑うべし。
  • IPv6でもパケットロスするなら、プロバイダのせいではない。
  • 光ケーブルはデリケート。 「これくらい大丈夫だろう」という曲げが、命取りになる。

同じように機器交換後に原因不明の接続不安定に悩んでいる方は、設定画面とにらめっこする前に、一度ケーブルを優しく引き直してみてはいかがでしょうか。